戦艦大和を考えるです。
当然日本の戦艦ですから、映画としては日本映画しかないのですが、大和とタイトルをつけているのは 2作品しかありません。 それも‘53に原作吉田満の「戦艦大和ノ最期」をベースにした新東宝の映画、「戦艦大和」と ‘05に公開になった辺見じゅん原作の「男たちの大和」だけですね。 製作も戦後8年目と60年目ですから大きく変わっていて当然です。 戦艦大和の原作は有名で、作者の吉田満本人が最期の沖縄特攻の際、士官として乗艦していたときの 沈没までの状況を克明に描いた有名な作品です。 高校の教科書にも載ったと思います。 また男たちの大和は特攻の際に乗艦していた特別少年兵に焦点を当てて、彼らの乗艦から沈没、戦後まで を描こうとした作品ですね。 当然前者は士官の目、後者の兵隊の目なので、視点が違うのですが、この2作品を見比べると、 軍というものが、時代が経つにつれて、よりヒステリックに、エキセントリックに描かれてきているように 感じます。 どちらもハイライトは沖縄特攻であり、そのシーンは当然凄惨なものですが、そこに至るまでの 身上の描き方が違って見えます。 どちらかといえば戦後直ぐ作られた「戦艦大和」の方が、登場人物が淡々としていて、特攻という 現実に対しても悲壮感はなく、ただ任務としてそれを遂行する上での個人の身上が、諦めとも 覚悟ともつかない気持ちの吐露として、挿入されるに過ぎません。 階級の違う士官室内でも、普段は先輩後輩くらいの感覚しか違いが見えないし、 階級の大きく違う副長との関係も、会社の上司のような付き合いに見えます。 まあ任務上では階級は絶対ですが、士官が自分の分隊の兵に接するときも、エキセントリックには 全然見えない演出でした。 どちらかといえば「男たちの大和」の方が、分隊内の下士官が常に威張ってる感じや、制裁に対しても ヒステリックに描かれているし、行くぞ!感が強く、軍に対する捉え方がより厳しいものに見えますね。 それにストーリー上、普通は最低でも直属の指揮官として、分隊士である将校が必ず出てきそうなもの ですが、まったく描かれていなかったのも奇異な感じです。 前者の「戦艦大和」は沖縄特攻襲撃前夜から、沈没まで非常にストーリーが集約されていて、その間 起こった出来事も簡潔に挿入されているため、非常にテンポもよくちゃちな特撮を除けば、映画として非常に 優れています。 逆に後者の「大和」は大和全体の年暦を時系列的に写しながら、そこにストーリーはめ込むことに 苦慮しすぎて、全体の焦点が大和そのものなのか、それとも人物のストーリーなのか曖昧に なってしまった感があります。 これはどんな戦争映画にもいえることですが、実際に兵役についていた事のある役者さんや従軍 経験者が演じている映画と、そうではない現在の役者が演じる戦争映画では、当然違いがあるのですが、 実際の経験者が演じた映画の方が、肩の力が抜け、みな淡々と演じているのが面白いところ だと思います。 意気込みとか気合とかではなく、ただ任務を全うすることfだけに集中する感じがすごく伝わってきます。 現在の映画でも統率と言う意味で、兵隊役の役者さんたちが実際に軍や自衛隊などに体験入隊したり するのは、日本でもアメリカでも変わらないようですが、実際の従軍経験者が演じる方が アメリカ映画にしてもまるで戦闘が日常のビジネスワークのように淡々と描かれていたのは 大きな驚きでした。 逆に言えば戦争という非日常の日常化が垣間見えて却って怖いように思います。 正直言うと戦艦大和の映画として、集約された期間を細かい事件も含めて克明に描いた、 古い「戦艦大和」のほうがストーリードラマとしては数段上のように思います。 艦長など高級仕官の思いやりや、士官の兵に対する心情、そして個人としての思いなどが、 克明に描かれていて、最終的には特攻出撃に集約されていく観は非常にドラマチックでもあります。 実際出撃前には、様々な退艦者が少なからずいました。 40歳以上の召集兵は、士官が申し合わせの上「使い物にならない」という理由で退艦させられましたが、 その実は一家の支えを失った場合家族の労苦を考えられた上だったそうです。 そのほか傷病者も退艦になりましたし、3日前に乗艦した士官候補生も全て退艦させられました。 この士官候補生の話は、幼馴染の父親がそうだった事を、彼から聞きましたが、彼らも「足手まといになる」 という理由で退艦させられたそうです。 その実は、これからの士官になる人材を惜しんでの事だったそうですね。 もっともその幼馴染の父親は、退艦させられる事に憤慨し、上官に直訴してぶん殴られ、気が付いたら ランチに乗せられていたと言っていました(笑。 そんなこともただ淡々と当たり前のように描かれ、極限の戦闘状態でも任務遂行のみを没頭する 姿を描いた古い「戦艦大和」見るべきものがあると思います。 ちなみにこの映画化にあたって、実際の当時の大和副長が監修にあたっているのも驚きでしたね。 この映画、今もう1度フルCGで作り直したらいい作品になるかもしれませんね。
by jyai883
| 2010-08-20 18:00
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